非臨床試験、前臨床試験、臨床試験(治験)

とくに文系出身者が医薬翻訳者になった場合、よくいただくお仕事としても治験関連のものが多いと思います。そこで、治験についての背景知識を持っている必要があります。

非臨床試験、前臨床試験

これらは動物実験です。人間を対象に治験薬(investigational drug, trial drug)を調べる臨床試験(clinical trial, clinical study, clinical research)の前に行われるものです。人間以外を対象にするため非臨床試験 nonclinical studyと呼ばれ、臨床試験の前ということで、前臨床試験 preclinical study(非臨床試験より狭義)ともいいます。臨床試験に先立つ、医薬品の薬理学試験、安全性試験と考えてください。モルモット(guinea pigs)、ウサギ、犬、などの動物に人為的に病気を誘発させ、実験します。

こうした「動物実験」を経て、ようやく臨床試験が始まります。

製薬会社は臨床試験をこれから実施してよいか許可を得るため、米国の場合なら、米食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)に治験許可申請 Investigational New Drug Application (IND)を提出します。

臨床試験 (治験)

臨床試験は第I相、第II相、第III相試験というふうに段階を経て進行していきます。第IV相もありますが、これは医薬品が上市後の市販後調査Post-Marketing Surveillanceとなります。

簡単にそれぞれの相を説明すると、、、

第1相臨床試験 Phase I Clinical Trial
非臨床試験データに基づき最初に実施します。 健常な志願者(被験者)(healthy volunteers)を対象に薬の忍容性(tolerance)、 吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、 排泄(excretion)、生物学的同等性(biological equivalence)、 薬理作用(pharmacological action)を調べる臨床薬理試験です。 absorption、distribution、metabolism、excretionについては 頭文字をとって、業界ではADME と略語で参照することもあります。

第2相臨床試験 Phase II Clinical Trial
第1相で得られた情報に基づき、少数の患者を対象に、 薬の至適用量(optimal dose)の検討をします。 これは用量設定試験(dose finding study)と呼ばれます。 また特定の疾病に対する治療効果、予防効果を調べる 探索的試験(exploratory study)でもあります。

第3相臨床試験 Phase III Clinical Trial
第1相と第2相で用量が設定され、有効性(efficacy)が妥当と 証明されれば、多くの患者を対象に大規模試験が実施される。 検証試験(confirmatory study)といえます。第3相は対照群(control)を据えた 比較対照試験が実施され、有効性、安全性(safety)について証拠を集めることを目的とします。

第4相臨床試験 Phase IV Clinical Trial
治療的使用を意味し、新薬の承認後に実施される市販後試験(市販後調査)を指します。医薬品の市販後調査の基準である GPMSP(Good Post-Marketing Surveillance Practice)が定義するもので、医薬品の臨床試験の実施基準であるGCP(Good Clinical Practice) を遵守し実施されます。

こうした法令についてはこちらをご覧下さい。

ちなみにこのひとつの相が前期と後期にわかれていることもあり
前期第1相臨床試験なら Early Phase I Clinical Trial
後期第1相臨床試験なら Late Phase I Clinical Trial
となります。時に例えば、第IIa相 第IIb相などと細かく分かれている こともあります。

治験の種類・治験関連用語

治験薬(investigational drug)には、実薬(actual drug)と呼ばれる薬効のある被験薬(test drug)のほか、プラセボ(偽薬)(placebo)という、薬効のまったくないダミーが含まれます。薬効のある治験薬をダミーと比較する試験に、二重盲検試験(double blind study)というのがあります。

プラセボは治験薬と比べ、外見でも識別不能(indistinguishable in appearance)であることが多いでしょう。

二重盲検試験では、被験者(subject, trial subject)と 治験を担当する治験責任医師(investigator)の両方が 被験者が治験薬とプラセボのどちらを投与したか知らされない方法です。

また治験依頼者(sponsor)である製薬会社や、 被験者の治療を行ったり、臨床評価に関係する治験責任医師のもとで 働くスタッフも知らないことを意味します。

治験を管理する人が試験を開始する際、治験薬にコード番号を付与します。そして試験が完了しデータの解析(data analysis)の時に、 解鍵(解錠)(decoding)し、被験者に投与された薬の番号を解読します。これは治験薬の効果を客観的に判断するための工夫です。

二重盲検試験のデザインには

(並行)群間比較試験 (parallel group comparison) クロスオーバー比較試験 (cross-over comparison)

などがあります。

複数の治験受託施設(contract institution) 、治験実施施設(Trial Site) あるいは治験実施医療機関(institution)などで行われる二重盲検試験は多施設二重盲検試験(multicenter double blind study)といいます。多施設無作為二重盲検試験(multicenter randomized double blind study)は、被験者を無作為に治験薬投与群とプラセボ投与群、あるいは対照薬(control drug) 投与群に割り当てることです。

被験者のみが治験薬を投与されたかどれか知らされていない場合は、 単盲検試験(Single Blind Test)です。

そのほかに三重盲検試験(triple-blind study, triple-masked study)といって、被験者、医師、評価担当者のいずれも治験薬の種類を知らされないものもあります。治験薬の割付を知っている人が評価担当になった場合の主観を避けるのが目的です。

非盲検試験 (open label study)は、被験者も医師も割り付けられた治験薬の種類を知っているもの。

一般試験 (open study、uncontrolled study)は、比較対照をおかない試験のこと。

比較試験 (comparative study)は、被験薬と対照薬を比較する試験。対照薬は薬理作用を持たないプラセボ(偽薬)が使われる。

症例・対照(ケース・コントロール)試験 (case-control study)は、患者群について、患者の性別、年齢、社会的背景などを一致させた対照群をつくり、患者群と対照群で過去に起きたことを比較して危険因子を探るもの。

コホート研究 (cohort study)とは、対象となる集団を追跡し、特定の要因と、疾病の罹患率(morbidity rate) や死亡率との関係を調べるもの。たとえば、飲酒、食生活、喫煙、職業などの要員と疾病の関係。

前向き(プロスペクティブ)試験 (prospective study)とは、被験者を特定してから、その被験者に現れることを調べていくもので、臨床試験はこれにあてはまる。

後ろ向き(レトロスペクティブ)試験 (retrospective study)は、被験者を特定してから、その被験者の過去に現れたことを調べていくもので、どうしてもデータが不正確となるのが難点。 また、治験に関連する決まった用語を以下に追記します。

治験調整医師(Coordinating Investigator)
多施設共同治験で、各治験実施医療機関の治験責任医師を調整する

治験モニター (monitor)
治験実施契約書、SOP、GCPにしたがって実施されているか調べる人。

治験審査委員会 Institutional Review Board (IRB)
治験の依頼を受けた病院等の治験実施施設は、の設置を義務付けられています。治験参加者の人権と安全性に問題ないかどうかを審査。

治験実施計画書(protocol)
治験の目的、デザインなどを記述した文書

治験総括報告書 clinical tiral/study report (CTR/CSR)
治験の臨床・統計学的な記述、説明の報告書

開発業務受託機関 contract research organization (CRO)
治験依頼者の責務を果たすため契約した個人・団体

独立倫理委員会 independent ethics committee (IEC)
医学・科学の専門家などで構成される独立した審査委員会

治験薬概要書 investigator's brochure (IB)
治験薬についての臨床・非臨床データ概説書

症例報告書 case report form (CRF)
protocol に規定される被験者の情報を記入する様式

除外基準 exclusion criteria
protocol に基づき治験対象から除外される人の基準

選択基準 inclusion criteria / Eligibility Criteria
protocol に基づき治験対象として適格とされる人の基準

インフォームドコンセント 説明に基づく同意 (informed consent)
治験に参加する人に治験での治療法などの詳細を説明し、被験者が自分の意思で参加することを示す文書に署名してもらうもの。

被験者数 (sample size)
治験に参加する被験者の人数のこと。

主要評価項目 (primary endpoint)
治験の目的となるような、治験で主に評価する項目のこと。これが達成されると、その治験薬を開発している製薬会社の株価に影響がでるほど重要なもの。これに次ぐ評価項目は副次評価項目(secondary endpoint)と呼ばれる。

患者背景 (characteristics of patients / Baseline Study Characteristics)
臨床試験に参加した患者の年齢・性別を含むデータ。こうした指標で被験者の分布を数値で表すこともある。これをdemography あるいは demographic characteristicsと呼ぶ。このデータと治験開始前の病状や重症度などをあわせ、患者背景としている。

併用薬 (concomitant drug / medication)
臨床試験では、治験薬の評価に影響を及ぼす薬剤を併用しないように要請される。治験で併用が可能とされる薬剤を指す。

単剤療法 (monotherapy)
ひとつの種類の薬剤だけを投与する治療法。

(多剤)併用療法 (multiple drug treatment / regimen)
複数の薬剤を投与する治療法。

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